慟哭/貫井徳郎レビュー
おれはいったい、何をすればいいというのか。
| 新本格系の旗手として期待されているらしい、貫井徳郎のデビュー作。鮎川哲也賞の最終選考に漏れたが、北村薫の後押しで1993年に刊行されたそうです。って正直に言うとあまり貫井徳郎のことは知りませんでしたので、Wikipediaで調べてみました。
何はともあれ、この「慟哭」、北村薫が後押ししただけあってデビュー作とは思えない完成度。根幹をなすトリックも見事な消える魔球に仕上がってます。 | ![]() |
実は貫井徳郎の作品としては「プリズム」を最初に読んだのですが、それが大きな大間違いでした。「プリズム」は作者がWEBで書いているように“アンチ本格“のかなりトリッキーな作品だったので、そういう傾向の作品を書く人かと勘違いしていたんですね。
で、「慟哭」を読んで貫井徳郎のイメージががらっと変わりました。
デビュー作でこれだけ人の意志・感情をきちっと描写した文章を書けるというのがまず凄い。ドキュメンタリー並にリアリティ溢れる筆致、感覚として感じられる登場人物の心象風景。そういった小説としての厚みを持たせる技を既にデビューから持ち得ているというのは、ごくわずかな小説家だけです。
しかもその作品が本格派の仕掛けを持っている。これはマニアの人にしか分からないかも知れませんが、どちらかと言えば松本清張のような”社会派“の文体ながら、トリックが”本格派”なんですね。奇妙なことにこういったスタイルの推理小説は非常に少ない。似たようなスタイルの作家を挙げろと言われても思いつきません。文体や雰囲気で言えば、天童荒太が近い気がする程度です。
そう言ったスタイルを持っているということは、読者を選ばないということだと思います。推理小説が好きであろうとなかろうと小説としての強度がありますから、推理ものだと意識せずに読むことも可能なのです。寧ろそうして読まれた方が、恐らくこの小説を一番楽しめるでしょう。
推理小説マニアよりは、単に読書好きな方に薦めたい一冊です。
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