てるてるあした/加納朋子 レビュー
そのしなびた手の上に、私はおずおずと自分の手のひらを重ねた。
| ここのところたて続けに加納朋子を呼んでいましたが、本当に加納朋子作品の魅力を発揮していると感じたのがこの1冊です。
もちろんデビュー作の「ななつのこ」をはじめ、その他の作品も"加納朋子"ワールドに浸れる珠玉の数々ですが、とりわけ「てるてるあした」の中のひとつひとつの出来事が織りなす日常的世界が、小さく強く光っているような感じがします。 | ![]() |
知らない方のために説明しておくと、この「てるてるあした」の主要登場人物と舞台は「ささらさや」のそれをほぼそっくり引き継いでいます。ヒロインは赤ん坊を抱えた"サヤ"から15歳の女の子"照代"へと交替していますが、彼女たちが佐々良(ささら)という土地にやってきてから、周りの人物たちと交流し、支えられながら成長していくという話しの大筋も同じです。
シリーズものと言ってもいい両作品ですから、その世界観やイメージもそっくりです。
また「ななつのこ」「魔法飛行」の駒子シリーズ、「掌の中の小鳥」なども絶妙な心理描写や、さりげない会話の妙、ふとした仕種の巧みな表現から呼び起こされる"加納朋子ワールド"は共通しています。
しかし「てるてるあした」では2つの点でそれらの作品と大きく違っており、その効果故に一際強く輝いていると思います。
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その最大の違いは物語の力点を、ヒロインと魔女と呼ばれる老婆の"日常生活から描き出される2人の交流"に置いていること。
「ななつのこ」や「掌の中の小鳥」でも2人の交流が描かれていますが、「ななつのこ」では手紙がそのメディアとなっていて、「掌の中の小鳥」ではバーという非日常的な空間が主要な舞台となっています。
対して、「てるてるあした」では会話の弾まない朝食や、小さな庭先での会話など、普通の生活から2人の交流が見えてくるようになっています。私たち読者の日常と変わらない、全く特別ではない世界です。
「おかえりなさい」「ただいま」といった挨拶や、お茶や食事の好みの違いなど、普通の世界の普通の出来事が描かれることによって、それまで手のひらの中で眺めていた"加納朋子ワールド"に私たちは入っていくことが出来ます。
一文で取り上げた「そのしなびた手の上に、私はおずおずと自分の手のひらを重ねた。」という文章から、お婆ちゃんの手のぬくもりを感じ取れるようになっているのです。
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そしてもうひとつの大きな違いは、"謎"と"不思議"のバランス。
先に述べておくと、"謎"と"不思議"は近しいようでまるっきり異なった事象です。
簡単に言えば、「謎は解かれなければいないが、不思議は解明されなくてもよい」
具体的には、「青い絵の具だけがなくなった」というのは、その"理由"が分からなければ奇妙なことですが、理由さえ分かれば疑問が残るものではありません。そう言う奇妙なことが"謎"です。
そして"謎"とは、その解答(ここでは青い絵の具がなくなった理由)こそが物語のポイントであるために、誰かからの能動的な働きによる解答が必要とされるものです。
では"不思議"とは何かといえば、「部屋に現れる女の子の幽霊」そのものであり、解明されなくてもよいというよりも、解明できないものです。"不思議"は起きたことであり、あるがままに受けとめられる、誰かに受容されなければならない性質をもっています。
能動的な働きを求める"謎"と受容を求める"不思議"。相反する性質をもっています。
「てるてるあした」では"謎"がこれまでの作品に比べて極端に少なくなっています。特に作者が得意としていた「日常の謎」はほとんど影を潜め、代わりに「少女の幽霊」や「差出人不明の携帯メール」と言った"不思議"な出来事が、物語の主要な要素に取って代わっています。
この作品の"謎"のひとつは「なぜ少女の幽霊が現れるのか?」というものですが、解明されるべき"謎"が少ないが故に物語の大きな強い焦点となり、作品全体を明確なものにする役を果たしています。
そしてあるがままに受けとめられる"不思議"が、作品がまとうミステリアスな雰囲気を醸成しているのです。
"謎"と"不思議"のバランスを変えることにより、作品の核としての"謎"とその周囲に広がる雰囲気を生み出す"不思議"という構成が生み出されているわけです。
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ヒロインと魔女と呼ばれる老婆の絆が少しずつ強くなっていく様子が、普通の生活の中で描かれているから、私たちは加納朋子独特の"優しい世界"に包まれるように感じとれ、その世界を強く印象づけているのが、"小さく強い謎"であり、それを取り巻く空気となっているのが"不思議"になっているのです。
加納朋子の作品群を宝石箱の中の宝石たちだとするならば、その中で最も小さく、最も強く輝いている珠玉がこの「てるてるあした」という作品だと思います。
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「てるてるあした」と「ささらさや」は連続ドラマにもなっているみたいです。
本を原作とする映像作品で良いと思う作品は少ないのですが、今回はちょっと観てみたい気がします。
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